二人の朝の始まりは

寒くて目が覚めた。途中で彼が起きて入ってきてるから羽毛布団が引っぺがされている。早朝、というには遅いくらいの時間か。本当に遠い昔、妹と同室で寝ていたときも掛け布団を寝相で手放し寒くなったのか布団と重ねていた薄がけの毛布との隙間に入ってきて、なのに暑くなったかまた寝相で蹴飛ばしたのでえらく寒い思いをした事があったがまたか。私の同室こんなんばっかか。お互いの本やら衣装で私室が溢れかえってるから寝室が同室なのだけど冬だけでも寝室分けようかな……ほら、某アルパカ曲の逆バージョンみたいに。
「ほら、起きてよジーギィ」
「んんん……」
「こら、起きて。君まぁた私の布団に潜り込んできて。今年何度目?」
「……しらない」
成長期遅いのかまだまだ可愛らしい体躯の私の年下のパートナーはその輝くブロンドを布団の中に引っ込めようとする。私の一等お気に入りであるプラネットアイは頑なにまぶたの下だ。
「早く起きたらコーヒー、でしょう?ジーギィの方が淹れるの上手いのに」
「ごめんねルーク……目が開かない……もう少し置いといて」
「んんー?これはまた夜更かししたね?寝る前に分厚い本読むの止めなよ私も経験あるけど次の日ゾンビになるから」
学生時代は寝る前に完結済み一話読み出して四時過ぎまで起きてるとかザラだった。大学までチャリで十五分だから睡眠時間四時間はあったけどよく側溝落ちたりコンクリの壁とかガードレールにぶつからなかったもんだわ。運命力高い馬鹿だったなぁ。
「キリがついたら止めようとしてたら思ってたより時間が……」
「知ってる。身に覚えがあるよしみでコーヒーは淹れてあげよう」
「……ありがとう」
あー笑顔可愛い。わりと年上好みだったんだけど宗旨替えしちゃったよね。まァ年上好みとか言っても恋はしてなかったけど。

お湯を沸かしながら豆を挽いたらフィルターをセットしてと。父さんがいた頃は家族みんなの分をやってたから豆でいっぱいだったけど2人だと意外に量がない。どうも今日は家族のことばかり思い出す。ホームシックかな?沸騰したお湯で容器を温めてついでにお湯を少しだけ冷ます。コーヒー用のドリップポットに冷ましたお湯を注いだら、中央で回すようにして淹れていく。端っこが決壊しないように気を付けて……出だしの部分は捨てると。普通のやかんだとどうしても決壊してたけどドリップポットは高いだけあるなぁ……不器用な私でもなんとか出来んだもの。朝ごはんはどっちも食べないしいいか。

「ジーギィ」
「おはようルーク」
あ、ちゃんと起きた。眠たげな顔はしているけれども。すごいなぁ、私ならまだ布団から出れないし控えめに言ってもゾンビ状態だわ。
「コーヒーは砂糖ひとさじだったよね」
「そうそう。ありがとう」
「いいや、やっぱりジーギィより美味しくできないのよね」
私は砂糖ガッと3杯くらい入れてしまうけど同じ甘党のはずのジーギィはそうでもないんだよね。
「十分だよ。道具を幾らか凝ってはみたけど僕自身そんなにこだわりはないんだ」
「特に眠たい時は?」
口の両端を吊り上げて笑う。チェシャ猫みたいと評判の悪そうな顔の完成である、なんてね?結構ジーギィの評判は良かったりする。私自身もこの表情可愛いなんぞ思ってないけど。
「いいや?そんなことを言わないでよルーク。基本的にはものぐさな君がコーヒー淹れるなんて贅沢だろう?それに今日は君の猫スマイルも付いてきた」
なんてこったい。私だってココアくらいは作るぞ!いやコーヒーじゃないけど!
「なら味わってね。言ってくれればもちろんまた淹れるけど」
いつも柔らかい表情のジーギィだが、いっとう目元が緩んだので本当にまずいものではないのだろう。

コーヒーを味わって、もう少ししたら今日の天気でも確認してから出掛けよう。さて、今日はどこに行こうか。